今回はバイオリン演奏で初心者がつまずきがちな「トリル」から左手の動かし方について考えていきます。
トリル探求のきっかけ
先日、キャシー・マデン先生とのレッスンで見てもらったモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番の第1楽章。このなかにトリルを含む表現がありました。別サイトのために僕が書いた記事ですが、詳細なレッスン記録なので紹介しておきますね。
《望みは何?》はじめに的を置こう!〜キャシー・マデン先生とのレッスン(2013/05/21 東京・目黒) | 弦楽器奏者に役立つ・カラダのやさしい使い方
2度目の演奏をストップする直前、トリルを演奏する区間あたりで、左背中というか脇腹というかそのあたりの部位に僅かな痛みを感じたからです。 …
レッスンの詳細な記録です
その時のことを思い出してみると、ヴァイオリニストにとっての左手の諸問題が根本的に解決してしまうんじゃないかと思えてきました。左手の指先をどう動かすのか、指先と・指先の触れ合うものとの関係性を考えながら動かすことを丁寧に繊細に観察したおかげで、僕の左手の動きは、すっかり変わってしまいました。
左手の動きを再構築するには
キャシーマデン先生とともに探求した流れを大まかに説明すると次のとおりです。
- 手ブラで立つ
- 楽器を手に取る
- 「なんじゃこりゃ」を楽しむ
- 持ち上げてみる
- 鎖骨の上に乗せてみる
- 指先を指板へ向かわせる
- 指は指板のところで止める
- 指先を指板から離す
- 手ブラで立つ
- 楽器を持たずに立ちます。ただ立っているんですが、その時に思ってみてほしいことがあります。《自分には頭がある。頭は動けて、脊椎や繋がっている自分の全部が着いてきてくれて、やりたいことをやれる……》ということを思い出していきます。これ、ちょっとしたコトですけど大事なんです。
- 楽器を手に取る
- さて、これからヴァイオリンを手に取ります。ヴァイオリンを、ただ持ちます。ヴァイオリンを持って立っています。
- 「なんじゃこりゃ」を楽しむ
- さて、いまあなたが持っている物体は、なんでしょうか。なんだ、この木でできた、奇妙な形の物体は。もこもこしていて、複雑な凹凸ばかりでできていて……(あなたは、本当はこれがヴァイオリンだと知っているかもしれませんが、ヴァイオリンというものを知らない人を演じてみましょう。「木でできているモコモコしたもの」を持っていましょう)
- 持ち上げてみる
- あなたは《ヴァイオリンを全然知らない人、見たこともない人》を演じつつ、持ち上げてみましょう。動かすときにどんなことを感じますか?重さもだんだん分かってきます。中身の構造をみようと思ったら見ることができますね。
- 鎖骨の上に乗せてみる
- 《ヴァイオリンを見たことが無い人》を演じつつ、《ヴァイオリンを演奏するために必要なことが何かを知っている先生》も演じて、一人二役で鎖骨に乗せてみましょう。いま、あなたの中には《何も知らない人》と、《演奏に必要なことを知っている人》が仲良く共存しながら、楽器を構えています。
- 指先を指板へ向かわせる
- さて、左手の指はいまどうなっていますか?指先を見ましょう。指先を指板に向けて静かに、丁寧に動かします。指板に触れたら動きを止めましょう
- 指は指板のところで止める
- 指先が指板に触れたら、それ以上動かす必要はありません。人によっては「こんなに軽く触れるなんて、弦を押さえられないよ」と思うかも知れませんが、構いません。いま試しているのは、指が指板に触れるために必要な動かし方です。
- 指先を指板から離す
- いま指先は指板に触れています。次は、指先を静かに丁寧に指板から離します。指を動かす間は指先を見ていてください。指が指板から離れたら指の動きを止めます。人によっては「指先が、こんなに指板の近くにあったら弦に触ってしまうじゃないか!」と怒り出すかも知れませんが、構いません。いま取り組んでいるのは、指先を・触れていた指板から離すためにどう動かせばいいかを試すことです。
最後の指を動かす過程を、何回か丁寧に繰り返してみましょう。指先を指板に向かわせる、止める、離す。
仕上げ:右手で左手指を動かす
さぁ、もう一つ試しましょう。自分の右手に先生役をやってもらいます。左手は生徒役になって、先生(右手)が動かす通りについていきます。
最後の指を動かす過程を、何回か丁寧に繰り返してみましょう。指先を指板に向かわせる、止める、離す。いま左手指は先生役である右手が動かしてくれています。左手の動きをよく見ていてください。左手自身の筋力を使わず、右手が左手指先を動かして、指板に付けたり離したりしています。どれくらいの力が必要だとわかりますか?
おしまいに
左手の探求はここまでです。僕はこれでトリルが劇的に変わりました。というか、左手の指まわりも含めて、左手の使い方全部が別ものに変わりました。疲れも痛みも、そういえばなくなっていました。それまでの親指や下腕、脇腹に出ていた痛みが消えました。
それよりすごいのは、指が回りすぎてしまう感じがしたことです。自らの意思とは別に、楽譜読み取り機能付き装置が内蔵されてしまったかのように、演奏しようとする思いに敏感に反応するように変わります。僕の場合、ものすごく敏感になってしまって、その日は《いままでの音程の感覚》が使えなくなってしまったくらいです。
それでは困るかもしれませんね。ですが、人間の能力ってすごいですよ。新しい使い方に適応するための再計算が、ものすごい速さで、無意識下で行われ続けていきます。戸惑いつつも、その新しい使い方をいまも楽しんでいます。