【混沌を鎮める】あれこれ試してワケが分からなくなってしまった時でも、自分の全部を活かして演奏する方法あります

 レッスンを重ねて探求を深めていくうちに、膨大な学びが積み重なってきます。実際の演奏の場――つまり、本番――でそれらの学びのひとつひとつをすべて残さず発揮するにはどうしたらよいのでしょうか。

 あるいは、「最初の先生はこう言った」「次の先生はこう言った」「今度の先生はこんな事を言った」――また新しいことを覚えなきゃいけないの?!

 答えは簡単です。

 いま私が持っているすべての経験・技術・知識を活かして演奏すればいいのです。これまでに生きてきた喜びも悲しみも、すべてを含んでいまを生きている自分が演奏しているんです。だから、自分全てを活かして演奏すると思えばいいです。

 レッスンというものは、その時の状況でパフォーマンスを阻害しているもの(動き・考え方など)を特定したうえで無毒化したり、パフォーマンス向上に役立つ特効薬となるようなアイデアへと転換してゆく、いわば血清メソッドのようなものをオーダーメイドで創り上げていくプロセスです。レッスンは先生と生徒の協働作業ですが、自分の中に先生役と生徒役を仮想的に置いて、レッスンをするのがいわゆる「個人練習」といえましょう。

 さて、レッスンでは特定の課題に着目してゆくことで、一つのことを深く深く学びます。レッスンを数多く重ねていくと、その学びのひとつひとつが相乗効果を発揮するようになっていきますが、その一方で「ひとつひとつを思い出すのに時間がかかる」ということに悩まされる場合があります。

 「立つためには、これとこれを思い出して……よし、立てたぞ。今度は楽器を構えるから、これとこれを思い出して……弓を動かすときは……指を動かすときは……ポジションを移動するときは……指揮者と共演者や聴衆の存在があることを思うこともやるぞ!……おっと、いまどこを演奏していたんだっけ?!」

 ひとつひとつを思い出すことも素晴らしいことです。しかし、思考のスピードは自分で思っている以上に速いのです。多くの人は、【思考のスピードが黙読するスピードと同じ】だという思い違いをしてしまっています。思うために必要な時間は、一瞬でいいんです。物語をすべて頭の中で読み上げる必要など無いのです。たとえば《何がどう動く》ということも、こうした言葉を一言一句ゆっくりとなぞる必要はないんです。まるごと全部活かそうと思えば、身についたことは発揮できてしまうのが生命というものが備えている素晴らしい働きです。その働きに任せてしまいましょう。

 とはいえ、何かを思い出すためには、言葉をキッカケとして使うのが容易な方法といえるでしょう。頻繁に思い出したい一連の動作に関する物語があるなら、その物語に文字数の少ないニックネームを発明して命名しましょう。動きをするときにそれを唱えてから動くといいですよ。3文字とか、長くても7文字くらいですかね。ヒトコトを一瞬で言い切れるような長さが目安です。

 本題に戻ります。もう一度、思い出すために繰り返しますよ。

 いま私が持っているすべての経験・技術・知識を活かして演奏するにはどうすればいいのでしょうか。これまでに生きてきた喜びも悲しみも、すべてを含んでいまを生きている自分が演奏するんです。だから、《自分全てを活かして演奏する》と思えばいい……と僕は思うんです。

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