ヴァイオリンの騒音問題、あるいは自分の耳を守るということ

Violin上達しよう

ヴァイオリンをひき、耳を傾ける・いちろーたの写真

 ヴァイオリンの音は、意外と大きいです。二つの観点から音を小さくして練習することをおすすめします。

 1つは、ご家族への配慮。もうひとつは、忘れがちですが、ご自身の聴覚への配慮です。

 メニューインは著書の中で次のように言っています。

奏者の耳のすぐそばで、ヴァイオリンの音をたえず響かせていると、長いあいだには疲れもするし気もいらだってくる。長時間、静かで、しかも集中度の高い練習をするために、わたしくしは、先が五つに分かれた鉄、または金属製の重い弱音器の使用をおすすめする。駒をしっかりはさみつける弱音器が、ヴァイオリンの振動の基本的なあり方に影響を及ぼすのに対して、この練習用弱音器は、長いあいだ使っても、ただ音の伝搬作用を最小にする効果をもつにすぎない。それは締めつける作用はしないで、ただ重さとしてはたらくだけのものだからである。この方法は、ヴァイオリニスト自身、ならびにかれの周囲の人たちにとって、とくに演奏会直前などに有益な保護策となる。
メニューイン/ヴァイオリン奏法より

私はこう思う

 練習用弱音器を装着したヴァイオリンや、サイレントバイオリンなどを使用する練習の弊害を語るひとは多くいらっしゃいます。その意見の背景に見え隠れするのは「別物であることに目をつぶり、やむを得ない代用品として使う」という考え方です。私は、こうした意見に異を唱えたいです。「別もの」と割りきって、自分に役立つような使い方をすればいいと思います。

弱音器を使う弊害として聞かされる意見

楽器が鳴らなくなる
駒を変形させなければ問題ないことと思います。練習用弱音器は駒に軽く乗せるだけでいいんです。
箱鳴りさせる感覚がわからなくなる
箱鳴りを止めている要因のほとんどは、奏者自身が楽器を握り締めること、アゴと鎖骨で挟み付け過ぎること、弓と楽器を過剰に押し付けあっていることによるものです。これらは、弱音器の使用によって直接に起きる問題ではないと考えたほうがよいでしょう。

サイレントバイオリンの弊害として聞かされる意見

音程が悪くなる
複数の楽器を使い分けるときに弦長や弦高の設定が一致していない場合、奏者はその違いに適応することを必要とします。かえって、音程づくりを機敏に行う訓練と捉えることもできるのではないでしょうか。
箱を鳴らせなくなる
アコースティック・ヴァイオリンに持ち替えたときに悪影響が出るという意見です。サイレントバイオリンやエレキバイオリンは、音響を作る仕組みがアコースティックヴァイオリンとは異なりますから、同じように演奏すること自体が理不尽と言えるでしょう。楽器それぞれの仕組みを理解して、その仕組みを活用することが演奏者には求められます。

 弦楽器は弦に振動を作って増幅させる楽器です。その訓練の本質は、弦の振動を作ることと、振動の増幅を最大化することと、阻害要因を最小化することです。この本質さえ見失わなければ、弱音器を使っても、サイレントバイオリンを使っても効果的な練習・演奏をすることができるのではないでしょうか。

「どれだけ音が小さくなるの?」ということ

 練習用の弱音器を使って、あるいは、サイレントバイオリンを使って練習すると、どれくらい音が小さくなるのでしょうか。夜中に家の中で演奏していると、家族が「静かにしてよ、寝れないよ」というかもしれません。

 騒音と感じるかどうかというのは、その音を聞く人の主観によって変わります。ご家族や近隣にお住まいのかたにたずねてみるのもひとつの方法でしょう。「最近、物音でご迷惑をかけていませんか?」とか。

練習用消音器あれこれ

 金属製ミュートで定番はこれ

 色違い品

ト音記号入り。基本構造は同じです。

 これらの他に、金属をゴムで包んだタイプ、金属をネジで取り付けるタイプもあります。

使用時の注意

 練習用の弱音器は駒に乗せて使うものです。駒に重さがかかることで働きます。駒に取り付け用としておしつけてしまうと、駒をおしつぶして、木材が変形・破損してしまいます。ただ乗せるだけにしてください。

 とくに金属製の弱音器は、外れやすいです。楽器を振り回すと外れてしまいます。また、演奏中に共振して浮き上がってくることもありますから、楽器の振動の様子も観察するようにしてください。

共鳴箱を持たないヴァイオリンの例

 最大の特徴は、アコースティック・ヴァイオリンではないということ。弦の振動をどのように増幅させるかという仕組みが、一般的なヴァイオリンとはまったく異なります。

ヤマハ「サイレントバイオリン」シリーズ

普及モデルはSV150 入門モデルはSV130 上級モデルはSV170

その他・エレキバイオリン

 買うときのチェックポイントは、アンプにつなぐためのアウトプット端子がどうなっているか、エフェクトなど必要な機能があるか/無駄な機能があるかどうか、付属品は何があるか(ケース、弓、肩あて)……すでに持っていて買う必要がないものは、付属品に含まれていなくてもいいですね。

参考

 メニューインがヴァイオリン演奏を愛する人びとのために書いてくれた本がこちら。読むのに根気が必要です。これを読まなくてもヴァイオリン演奏は上達できますから、無理に読まなくてもいいです。でも、できれば読んでみてほしい本です。

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