「音がハッキリしない」ときに試してみてほしいこと~《歌うのは左手の仕事》というアイデアで演奏する

 いちろーです。

 むかしむかし、オーケストラの合奏練習の時に、ある先輩に言われました。

歌うのは、右手じゃない。左手で歌うんだ!

 「細かい動きがはっきり聞こえない」ときにも効き目があるだけでなく、細かい動きのある箇所で走っちゃうとか、ゆっくりした箇所が間延びしてしまうとか…。こうしたことも、この「左手で歌う」ということを思うだけで、解決しちゃいました。なぜ、《ヴァイオリンは左手で歌う》とうまくいくのかを考えてみましょう。

音の発生源……「バイオリンの弦」=「ヒトの声帯」

 音は《振動するなにか》から生まれます。この音を使うために、どんな考え方をすればより良い使いかたをすることができるのかを考えてみます。

 ためしに、ヴァイオリンの演奏を、ヒトが声を出すしくみに置き換えてみます。ヒトの声は、声帯が振動することが、発生源といえます。声帯は、息の通り道にあって、息を受けて振動します。この振動を、体で共鳴させて送りだしているんですね。
 ヴァイオリンの音の出方を考えてみると、弦の振動があって、楽器の本体は共鳴体として働いています。つまり、ヴァイオリンの弦はヒトの声帯にあたるものだといえるんですね。

音を生かすために……2つのアプローチ

 人の声の例で言うと「声を操るために、ヒトの体をどう使うとよいか」には、大ざっぱに言って2つのアプローチがあると僕は思っています。ひとつは、《声帯を振動させる入力の質を高める》ということです。もうひとつは、《声帯の振動を邪魔する要因を取り除く》ということです。

 ヴァイオリンで言えば、前者の「声帯を振動させる入力の質を高める」は、主にボウイング(弓の動かし方)の領域の問題ですし、後者の「声帯の振動を邪魔する要因を取り除く」は主にフィンガリング(左手指での弦への触れ方)に関する問題といえそうです。

実際には、この2つを完全に切り離してトレーニングできるわけではないですが、どちらかに焦点を当てて改善してゆくと、相互作用がうまれて、改善スピードが相乗的に加速されていくことが多いです。

「左手で歌う」と、見えてくるものがある

 実は、左手というのは、ヴァイオリン演奏において影の支配者的な位置を占めています。「左手で歌おう」と思ってヴァイオリンを演奏してみると色んなことが分かってきます。
 右手で歌おうとするのも悪くはないのですが、右手の仕事はあくまでも「弦を振動させるために弓でこする」のが主な担当です。左手では音程を変えることもやっていますが、楽器を弓に向かわせる具合を変えることもできたりします。

 ヴァイオリンの演奏は、左手の準備ができてから、はじめて右手を動かす…という流れで成立します。トランペットやホルンの演奏でも、出したい音があって、唇にマウスピースを押し当ててから息を吹き込みますよね、それと同じです。

でも、左手だけで歌うわけではないということ~全身の協調が左手を助けてくれることを思おう!

 左手で歌うことを書いてきましたが、実際には、左手だけでは何もできません。右手だって左手にはできない仕事をしています。ヴァイオリンの音が鳴り響くように助けるのは、左手も右手も同じことです。そして、左手も右手も、全身がうまく助けあうから自在に動き回ることができます。足も、腰も、背中も、首も、目も、耳も、口も、あごも、アタマも。

 自分の全部が、左手と右手を通してヴァイオリンとつながるために働いています。すっごく音が豊かになりますよ。

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