父のひとこと。

まだ夜の明けない2時。
父は眠っているのだが、寝返りを打つときに痛むのだろう、目を覚まして騒ぎ出す。
起こされた母は、ネガティブ・ストロークで鬼嫁モード。
あっというまに、炎上。
弟もたまらず巻き込まれる。


「今夜こそ俺は寝る」と思って不貞寝を決め込んだのも束の間、弟の気配を枕元に感じ、起きて父のそばに。
父いわく「119番、まわしてくれ(発呼してくれ)」と。
ただ言われるがままに119通報はできない。
3人とも苛立ってしまっている。
まず、母と弟は無視する形で父の訴えを一人で聞き取ることにしてみる。
痛むのはどこなのか、教えてもらう。
他に痛むところはないか、たずねてみる。
―腰だか、背中だかが痛くて息が詰まりそう。
―便が出そうだが、なかなかでなくて苦しい。
いろいろ言っているのだが、整理すると以上2点。
とにかく、冷静を取り戻すことに注力しようと決めた。
母が、余計な茶々を入れてくる。
母の永年の鬱憤が、ここぞとばかりに噴出してくるので、えげつない言葉遣いだ。父は、汚い言葉遣いを嫌うので、あっというまに感情が沸騰する。
昼間なら、父もそんな言葉を上手にいなしてしまうところだろう。
夜の闇は不安を増長させる。
痛みが減ずる姿勢を探そう、と体位を変えるよう勧める。
楽な姿勢を自力で探し当てると、呼吸も落ち着いてきた。
わずかだが、表情にも安らぎの色が戻ってきた。
要望に応じて水をのませた。
だいぶ落ち着いたようだ。
便意や痛みの訴えはほとんど消失した様子。
ずっと見守ってくれていた弟には
「もう大丈夫、むこうで休んでて」と部屋に戻ってもらう。
母は隣室へ移り、
父のそばには私が寝ることにした。
うとうとし始めた頃、父が何か言っている。
「C.C.Lemonがほしい」と。
吸い飲みに半分、C.C.Lemonを飲ませた。
ミネラルウォーターのときとは桁違いの勢いで飲み干した。
水よりも味・香りのついた炭酸水は飲みやすいらしい。
おかわりをくれといわれた。
「C.C.Lemonは残りが少ないから、楽しみは明日に取っておいたらどうか」と提案し、受諾される。
無事に夜が明けて……
また母が父を世話している。
「まったく、この人は!」と声を荒げる母。
でも、夜とは違い、けらけらと笑っている
「ありがとう」と言葉にしている父。
それをきいて、僕はちょっとだけ気が休まった。
とはいえ、父母の罵り合いは勘弁してほしい。

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