メニューインによるヴァイオリンのための6つのレッスン(5-左手の動き…基礎動作と訓練方法)〜第5回

Violin上達しよう

 「ヴァイオリン演奏を教えるときに、アレクサンダーテクニークの考え方が役に立つぞ!」と気がついて、私はいまアレクサンダーテクニークの教師になる資格を取るための勉強をしているところです。アレクサンダーテクニーク教師養成コースで6ヶ月ほど学んでみて、1冊の本のことを思い出しました。20年以上前に出会った書籍『メニューイン/ヴァイオリン奏法』です。

 彼の最後の来日を機に、著書を手に入れて自分の演奏にも取り入れようと、1年間ほとんど毎日独習しました。しかし、当時の僕にとってはあまりにも難解で、他の人に教えるほどに価値があるとまでは思えませんでした。アレクサンダーテクニークを自分の演奏や日常生活に組み入れるようになって、この本の価値を再認識するに至りました。この難解なメニューインの著書を解説してみようと思ったのです。

 もともとこの著作は、ビデオによる6つのレッスン・シリーズのテキストとして書かれたものです。(ここでも書きました→メニューインのヴァイオリン奏法についての記事

 第5回目となる今回は「レッスン5 左手の動き」についての解説です。

激レア!メニューインの座奏

 今回の記事に該当するYouTube動画「左手の動き」を紹介します。実は最大の見どころは、メニューインが椅子を受け取り、椅子に座り、楽器を構えるまでのところです(3:28頃)メニューインの座奏の姿はこの動画のほかでは、僕は見たことがありません。まぁ、これは蛇足です。本題の「左手の動き」に戻りましょう。

左手の動きの源〜波状運動

メニューインの極意《波状運動》

 メニューインの言葉から左手の動きのエッセンスを取り出してみると、《左手の全ての動きは、波状運動から発する》と言っています。

 もうちょっと補足しましょう。指板と触れあいつつ動きまわる左手の動きは、あまりにも多彩です。しかし、全ての左手の動きは、波状運動と名づけるのがふさわしい動きを土台として、そこから発展した動きだと考えるのが理にかなっています。といった趣旨のことをメニューインはビデオの中で言っています。

 波状運動……wavy motionなのか、weaving motionなのか、僕には聞き分けられませんが、テキストは「波状運動」という訳がアテられています。動画を見た僕の表現としては「3次元空間のxyz軸それぞれに揺り動かすこと」です。

ボクシングの防御テクニックの1つで、頭や上体を上下左右に動かし、的を絞らせない方法。
ウィービングとは – 日本語表現辞典 Weblio辞書

僕が思う波状運動

 指を動かそうとするとき、指以外も動いていいんです。それが僕の思う《波状運動》です。

 指を動かそうとするとき、指だけを動かそうとするから故障するんです。指を動かすために、自分全部を使う。やりたい事の実現のために、自分の指を動かしたいように動かす。極意というにはおこがましいですが、カラダの現実だと思うんです。

 メニューインがいう波状運動は、カラダの動きを、必要に応じて《意識的に建設的に》組み合わせて使うことだとも言えると思います。

左手の運動軸は3方向

3つの方向とは

 バイオリン演奏における左手の運動は、右手が弓を扱う時と同様に、3方向の軸を持っていると考えられます。3つの方向については僕なりの説明を書きますが、あくまでも便宜的な説明で、不正確な表現かもしれません。

垂直対抗的
魂柱の立つ方向。裏板から表板へ向かう軸。指板とネックを中心に、1〜4指が弦を指板に触れさせようとする方向と、親指がそれらの指の加える力に対抗しようとする力の向き。その他には、楽器の重さを支えるために親指がネックやショルダーを押し上げる向きとしておきましょう。
水平に
弦が張られている向き。テールピースからペグボックスへ向かう軸。
左右に
指板を平面と見たとき、E線からG線へと向かう軸。張ってある弦を軸として回転するときの動き方と言ってもいい。

左手を動かすということ

 左手の仕事をひとことで言うと、「注文どおりに指を運ぶ」です。複雑なテクニックを学習するときには「指を、どこからどこへ運べばいいのか」を整理しましょう。時間的な要素も検討する必要があります。例えば、移動速度は早いのか遅いのか、加速度はどう変わるのか。1つの指を動かす間、他の指はどう動かすのか。

 左手の動かしかたを練習するときには、1つの指に関する訓練のようであっても、他の部分・動きの要素や楽器との関係性があるのだということを思い出せるように取り組んでいきましょう。

「難しい」=「分かりにくい」=「時間がかかる」

 難しい箇所というのは、複雑なだけです。どんな音が必要なのか、そのために何をすればいいのか、それさえわかれば演奏できます。ただ、複雑なぶん、準備に時間が必要です。そして、学習によって準備がグループ化されて自動的にできるようになっていきます。学習が進めば進むほど、学びが加速していきます。

 パソコン初心者にメールの書き方を教える場合、メールの作法や、メールの仕組みを教えるよりも前に覚えてもらうことがたくさんあります。例えば、パソコンの電源の入れ方/切り方、マウスの操作方法(クリックとかダブルクリックとか)、キーボードでの文字入力・間違った文字の消し方などを覚えてもらう必要があります。いきなり全部は無理があります。「メールを書けるようになる」ために必要なことを、ひとつずつできるようにしていけばオッケーです。

 バイオリン演奏も同じことではないでしょうか。ひとつひとつの細かいトレーニングも大切ですが、あまりにも深入りしすぎることがないように。バイオリンが好きだという気持ちを確かめつつ上達を楽しんではいかがでしょうか。

タイトルとURLをコピーしました